住宅性能のなかでも特に注目されるのが「断熱性」です。
家の断熱性には「断熱等級」という、国土交通省が制定した性能基準があります。
断熱等級は「暖冷房にかかる一次エネルギー消費量をどれだけ削減できるか」をもとに分類されており、等級が高くなるほど、住みやすく地球にやさしい住宅であることを示します。
この断熱等級、2022年10月より断熱等級6と7が新設されたのはご存じですか?
断熱性の基準が新しくなった背景や、そもそも断熱性能がどのように判定されるのか、それにより皆さんの暮らしがどう変わるのか。
またセキスイハイムの断熱等級も解説します。
断熱等級が新設された理由は?
そもそも家の断熱性能を上げる理由は何でしょうか。
断熱性とは、読んで字のごとく、熱を断つ性能を言います。
我々が家の中で生活をしていく上で、夏は冷房、冬は暖房が欠かせません。
しかし、当然ながら夏は外から熱が入り込み、冬は中から熱が逃げていきます。
この熱の逃げにくさ、保温力のことを断熱性能といいます。
そもそも断熱性能を上げる必要性とは?
断熱性能を上げる必要性は3つあります。
- 高騰する光熱費への対策
- ヒートショックなどの健康被害のリスク低減
- CO2削減による地球温暖化への対応
もともと、断熱性能の評価が始まったのが、1980年に制定された「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」がきっかけです。
化石燃料などエネルギーを輸入に頼る日本としては、エネルギーを合理的・効率的に使うことが必要でした。(現在もですが)
その基準が、徐々に引き上げられ、H28年の次世代省エネ基準というのが断熱等級4とされ、これまでの最高等級でした。
なぜ等級が7まで引き上げられたの?
エネルギー基本計画の中で、2050年にカーボンニュートラルを実現するという長期目標があります。
その過程で2030年で、温室効果ガス46%の削減を一つの目標として様々な施策が行われています。
ZEH(ゼッチ)という言葉は皆さん聞いたことがあるでしょうか。
Net Zero Energy House の略で、太陽光発電や、省エネルギー設備、断熱性能の向上により、生活で消費するエネルギーよりも発電設備などで生み出すエネルギーが上回る住宅のことです。
これもエネルギー問題解決の1つの方法として2030年にはZEH基準の建物が平均的になる目標が掲げられています。
私たちセキスイハイム東海でも、「太陽光発電×蓄電池×HEMS」を組み合わせることでZEH対応の住宅を増やす取り組みに力を入れています。
→「太陽光発電×蓄電池×HEMS」でできる電気の自給自足を目指す生活
断熱等級についても、2030年の目標を達成するために、さらに省エネルギーな住宅の普及のために新設されました。
脱炭素化社会の実現に向けた動きの1つと言えます。
2025年にはすべての新築住宅が断熱等級4への適合が義務化され、2030年には新築されるすべての住宅がZEH基準の建物(断熱等級5)の基準をクリアすることが必要になりそうです。
断熱等級の基準とは
では、どのように断熱等級は判断されるのでしょうか?
断熱性能を表すUA値とηAC値(イータエーシー値)
先ほど、断熱性は熱を断つ性能と言いました。
省エネ基準を満たす数値にUA値とηAC(イータエーシー)値の2つがあります。
【UA値:W/㎡K】外皮平均熱貫流率
室内外で温度差が1℃あるときに建物の表面積1㎡あたりから逃げていく熱量をさします。
UA値は小さい数字の方が断熱性能が良いということになります。
【ηAC値】平均日射熱取得率
太陽日射の室内への入りやすさの指標で、日射により取得する熱量を冷房期間で平均し、外建物の表面積で割った数字です。
ηAC値も小さい数字の方が断熱性能が良いということになります。
ざっくりとですが、UA値は逃げていく熱量、ηAC値は入ってくる熱量と考えればよいです。
地域によって異なる断熱等級の基準
日本を外気温や日射量によって1~8までの区分に分けています。
当然、寒い地域と暖かい地域では、室内と外気温の差が異なってきます。
北海道の内陸部では、室内20℃外気温-15℃で室内と外気温の差が35℃といった地域もあるでしょう。
一方沖縄では、室内と外気温の差がそこまでになることはありません。
つまり、地域によって求められる断熱性能が異なるということです。
また、「県」という単位でも当然、違いがでてきます。
海沿いと内陸部では当然気候がことなります。 静岡県内でも5~7地域が混在しています。
それぞれの地域の中でその等級に必要な断熱性能が以下の表となります。
断熱等級 | 外皮性能 | 1地域 | 2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | 8地域 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
等級4 | UA値 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | – | |||
ηAC値 | – | 3.00 | 2.80 | 2.70 | 6.70 | ||||
等級5 | UA値 | 0.38 | 0.46 | 0.60 | – | ||||
ηAC値 | – | 3.00 | 2.80 | 2.70 | 6.70 | ||||
等級6 | UA値 | 0.28 | 0.34 | 0.46 | – | ||||
ηAC値 | – | 3.00 | 2.80 | 2.70 | 5.10 | ||||
等級7 | UA値 | 0.20 | 0.23 | 0.26 | – | ||||
ηAC値 | – | 3.00 | 2.80 | 2.70 | – |
静岡県であれば、5~7地域に属しているので
等級7を取得しようと思うと、UA値で0.26
等級6を取得しようと思うと、UA値で0.46
という基準を満たす必要があります。
ちなみに断熱の指標として一般社団法人HEAT20が提唱しているG1~G3というものも存在します。
等級5≒G1 等級6≒G2 等級7≒G3とざっくり覚えておけば良いでしょう。
断熱等級で暮らしはどう変わる?
断熱性能と、地域による基準についてはご理解いただけたと思います。
では、その断熱等級を達成する事でどんな暮らしが実現できるのでしょうか?
先ほど、断熱等級5=ZEH基準だと説明しました。断熱等級5は暖冷房にかかる一次エネルギー消費量が20%程度削減、断熱等級6は30%程度削減、断熱等級7は40%程度削減を目安に設定されています。(等級4に対して)
当然、光熱費の削減につながりますし、各部屋の温度差や、同じ部屋でも上下(天井付近と床付近)の温度差も少なくなり、快適な暮らしが実現できるのではないでしょうか。 ただし、断熱等級を上げることによって、建築費用もかさみます。そのあたり費用対効果がどうなのかという視点も必要です。
断熱等級を確認するときの注意点
さて、ここまで見てくると断熱の重要性や、国が目指すカーボンニュートラルな暮らしを実現するために、どんどん断熱性の基準が上がっていくことがご理解いただけたと思います。
しかし、断熱性の数字だけを見ていると思わぬ落とし穴があるので注意です。
あくまでも計算上の数字
1、あなたの家のプランによって変わります
UA値を計算する際には、天井や壁の断熱材の厚みや性能、窓、玄関などの性能等で計算していきます。
カタログにはだいたいこのような注意書きが記載されています。
「弊社モデルプランにより算出、UA値はプランによって異なります」
メーカーの同じ商品だとしても、平屋と2階建てとではUA値は異なりますし、外壁の量が多い間取りだったり、窓の大きさや量によってもUA値は変わります。
例えばこの場合形状Aに比べ、形状Bのほうが外壁の量は多くなります。
2、設計通りに施工されているか
設計上の性能と、施工後の性能が同じであればいいですが、雨の日の施工で断熱材が濡れてしまったり、施工不良による隙間などがあれば、当然期待していた断熱性能は発揮されません。
経年劣化やシロアリの被害で、新築当初は良くても、何年か後には性能が保てないことも・・・。
どのように施工・管理されるのかも重要です。
3、気密性能も併せてチェックが必要
断熱性能は、よく「セーター」と表現されます。
温かいセーターは、空気の層を作り保温の役割を果たします。
しかし、いくら保温能力に優れていても、すきまからヒューヒューと風が吹いていたらせっかくの保温能力も発揮されません。
なので、「ウィンドブレーカー」の働きをする気密が重要となります。
冷たい隙間風を防ぎ、暖かく保温することで、本当の意味での快適で省エネな暮らしが実現されます。
必ず、気密性能も併せてチェックが必要です。
お金をなるべく掛けずに断熱性能を上げるテクニック
等級7を達成しようとすると、窓ガラスをトリプルガラスの樹脂サッシになるなど、それなりにお金がかかります。
ここではなるべく価格を抑えて断熱性能を上げるテクニックを紹介します。
1、窓の設置を考え直す
室内の熱の約半分が窓などの開口部から逃げていくとされています。
東西面の大きな開口は、夏は日射取得が多く暑くなりやすく、冬は、日当たりが望めず寒くなりやすいなどのデメリットもあります。
また、お風呂やトイレといった場所も現在では24時間換気で、換気計画がきちっとされていれば窓が無くても実は問題ありません。
このあたりの窓を削ることで、UA値を下げることができます。
2、勝手口の採用を考え直す
勝手口は、断熱性・防犯性の弱点になりがち。
明確なメリットや利用目的がない場合は極力採用を抑えると〇。
3、玄関ドアを考え直す
玄関ドアも、外壁に比べると断熱性能が低い部材。
幅の大きい1300サイズで採光用のガラススリットがあるものよりは、1000サイズで採光のないドアにすることで断熱性能が上げられます。
窓が1つもない家にすれば、一番断熱性能が高い家となりますが、快適性や居住性が失われますので、このあたりはバランスが必要ですね。
ご自身が何を優先したいかを明確にして検討すると良いかもしれません。
必ずしも断熱等級6や7を目指さなければいけないわけではありません。
ZEH基準の5をクリアしていればOK。
そこから予算や、自分の家づくりで優先したいことを天秤にかければよいと思います。
どうしてもお風呂やトイレに窓をつけたい人は付ければよいと思います。
セキスイハイムの断熱等級について
さて、最後にセキスイハイムの断熱等級についてです。
セキスイハイムでは、2023年12月に断熱等級6仕様を標準化すると発表されました。
(5~7地域)以下プレスリリースからの引用です。
セキスイハイムの工場生産技術を活かした断熱仕様の特長を「あったかしっかり断熱」と総称し、高気密・高断熱仕様の住まいを提供します。 基礎 と躯体は高性能断熱材を用い、開口部は高断熱アルミ樹脂複合サッシや樹脂サッシを採用。 工場の大型機械によるミリ単位の正確な施工と、雨に濡れにくい安定した作業環境下で品質を確保するとともに、スケールメリットを活かした部材共通化や物流効率化によるコスト抑制も図ります。
実は、セキスイハイムでは、北海道地区限定の「シェダン」という商品もあり断熱等級7を実現する技術も持っています。
しかしながら、現在価格とのバランスも考慮し断熱等級6の標準化という選択をしています。
断熱等級6(もしくは5)とセキスイハイムの気密性と快適エアリーの組み合わせで快適な住まいは実現可能です。